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ちいさな宝物
[三毛猫さくらの成長日記]

平成14年6月25日 初版第一刷発行
著者:金森玲奈
発行所:新風社
定価:1600円(税別)
ISBN4-7974-4501-7
C0072

以前、猫通信で、金森さんの「ちいさな宝物」と題した写真展を紹介した。東京駅丸の内口に現れた一匹の子猫、瀕死のさくらちゃんが、ボランティアの方々やホームレスの人の暖かな手と心に支えられ、成長していく様を描いた写真展だった。このほど、同名の写真集が発行された。

片手にすっぽり収まってしまう痩せこけた子猫は、目も満足に開かない。地面におろせば二、三歩で倒れてしまったという。その体と同じように、子猫の命の火もか細く揺らいでいた。「さくら」という名前に、金森さんは次の春、桜の下で遊ぶさくらちゃんを見たい、と強く願った。それは、さくらちゃんを取り巻く人々の共通の祈りでもあったろう。

痩せてはいても、さくらちゃんの視線には強い光があった。命の火は、多くの人々の手で大切に囲まれ、目の光と同じ強さを取り戻した。

そして2年、さくらちゃんは、東京駅丸の内口前の公園で、今、この瞬間もしっかりとした時を刻んでいる。

その2年間を、金森さんの視線で切り取った写真を収めたのが本書だ。

幼かったころ、さくらちゃんの見開いた目は「生きる」ことを必死で訴えていた。
今、さくらちゃんの目は訴えるのではなく、見ている。その目に、私たちはどう映っているのだろうか。私は生きているだろうか、と思わず自分に問いかけた。

本書を通して、さくらちゃんとさくらちゃんを囲む人々の変わらぬ距離に、はっとさせられた。この近すぎず、遠すぎない距離で、猫達とつき合うことは、だんだんと難しくなっている。猫に関わる人間には100か0か、その選択を迫り、猫たちには太陽の下で暮らすことを許さない、そんな社会が、果たして豊かな社会なのだろうか。
さくらちゃんはどう考えるだろうか。

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