マイクロチップのない猫は???
杉並区長への質問状と回答


地域猫の活動が徐々に浸透し、行政として支援、バックアップするケースも増える中、東京、杉並区の動きには理解しがたいところがあります。かつてはあったノラ猫の避妊・去勢の支援制度は廃止されました。一昨年、トライアルとして期間限定の申込受付があったのですが、対象獣医師は極めて限られており、これまで地域猫の活動を支えてくださっていた獣医師の名前は見当たりませんでした。これと並行して、飼い主情報等を記録したマイクロチップを猫に埋込むことが議論されているようです。
こんな状況下、とある噂を耳にしました。
杉並区ではマイクロチップの埋込を徹底した後、チップのない猫はすべて捕獲、処分する、というのです。
よもや、とは思いますが、これまでの流れを見ますと、あり得ない話ではありません。一度結論が出てから運動を起こすより、この段階でまず反論を、と思い、さっそっく区長宛に質問状を送りました。
以下がその内容と回答です。
よろしければ、ご一読ください。

杉並区長への質問状:2006年4月13日
杉並区からの回答:2006年4月18日



杉並区長への質問状

山田区長殿

平素は、区民の安全と生活環境の向上のためにご尽力いただき、ありがとうございます。
先日、とても気がかりな風聞を耳にいたしましたので、お問い合わせさせていただいます。

杉並区内の猫に飼い主等の情報をインプットしたマイクロチップを埋め込み、マイクロチップのない猫はすべて捕獲、処分するというのです。
マイクロチップの安全性や効用、実効性についても論議を尽くさなければならないとは思いますが、心配なのは、マイクロチップのない猫の処遇です。

現在、家のない猫に対して、里親を探したり、食事の世話や健康管理をして寿命を全うさせてあげると同時に、家のない猫が増えないよう、避妊・去勢をする、という地域猫の活動が盛んになっています。近隣の清掃を含むこの活動に対して、住民の理解も徐々に浸透してきているのではないでしょうか。東京都も地域猫活動のモデル地域を支援するなど、区・都といった行政のバックアップがあったエリアの地域猫活動は、大変な成果をあげています。動物に対する扱いにおいて、まだまだ後進国と言わざるをえない我が国において、このような活動が市民権を得ようとしているのは、一条の光です。

そんな流れの中、杉並区でマイクロチップのない猫は捕獲、処分する、などという議論が起こり得るはずもないとは思うのですが、実際のところいかがなのでしょうか。

他区がノラ猫の去勢・避妊の助成金を給付する一方、杉並区では以前あった助成制度が廃止になった経緯があると聞いております。昨年からテスト・トライアルとして期間限定で助成の申込受付がありましたが、対象獣医師も限られておりました。おそらく、マイクロチップ埋込を見越した動きだったのでしょう。この一連の動向を見ますと、『まさか』が起こりうる可能性もあるのではと危惧するばかりです。

行政には「猫害」なるものの苦情が多数寄せられていることでしょう。苦情が行政まで届くようになった大きな原因は、「ノラ猫にエサをやらないでください」という一文だったように思います。区報「すぎなみ」にも以前、この一文が載せられておりました。それは、「ノラ猫にエサをやることは罪悪」という考えに、区がお墨付き与えたことに他なりません。その陰で、痩せ細り助けを求める今そこにある命に目をつぶることができず、周囲の罪人視する冷たい視線に背を丸めながら、エサを運び、掃除をし、身銭を切って避妊・去勢をしてきた人々がいるのです。中には、エサを与えるだけの人も大勢いたでしょうが、この人をどうして責めることができるでしょう。日増しに痩せ衰える命に平気でいられる人の方がずっと恐ろしいではありませんか。

最近の区報「すぎなみ」では、「ノラ猫にエサをあげるなら、掃除と避妊を」と呼びかけてくれるようになりましたが、それでも「避妊」はエサをあげる人だけの義務のようになっています。自分の庭や車を守りたい、という気持ちは分かりますが、そのために、命に目をつぶれない人(敢えて猫好きとは申しません)がすべてを引き受けなければならないのでしょうか。猫の命を人質に捕られているような脅迫観念にも近い気持ちと、周囲の罪人視の板挟みの中で、精神を病んだ方も少なからずいることをご存知でしょうか。

猫が庭に来るから、この地域から引っ越したい、という方はあまり聞きませんが、猫を異常なまでに忌み嫌う人々から逃れたい、引っ越したいという人は大勢いるのです。

区長殿が思い描く杉並は、どんな杉並ですか?

猫をこよなく愛する人がいれば嫌う人もいる、当然のことです。さまざまな考えや感情を持った人が、どのように折り合っていくのか……ご近所に迷惑をかけないようにという気遣いと、「お互い様」という寛容の心があってはじめて折り合えるのではないでしょうか。

それは、行政の仕事ではない、とお考えかもしれませんが、こと『猫』について言うならば、「ノラ猫にエサをあたえないでください」と公言してしまった過ちの修復のためにも、地域猫活動を我が事として積極的に支援、推進し、活動の意味を広く啓蒙していただきたいのです。

とある地域猫活動家は、苦情を言ってきた方にも、避妊の費用の一部負担をお願いしているそうです。一見、えっと思うような対応ですが、これによって、二極分化したコミュニティが徐々に一つになっていけるのですね。なぜならば、苦情を言う側も言われる側も「猫」という同じ問題を共有しているのですから。

マイクロチップのない猫の捕獲・処分は、「命」の問題は言うまでもなく、コミュニティを硬直化させ、住みにくい杉並、或は偏った杉並を作ることにしかなりません。このような議案が本当に存在するのかどうか、存在するとしたら、その主張はいかなるものなのか、ご回答をお待ち申し上げております。

p.s. 外にいる猫たちは、ネズミを捕まえてきます。ちゃんと地域のお役に立っています。


杉並区からの回答

横倉 初江 様

杉並保健所生活衛生課長  馬場 誠一

日頃より区政にご協力をいただき、感謝申し上げます。

横倉様からいただきましたご意見は区長が拝読いたしました。以下、生活衛生課長より回答申し上げます。

ご質問の猫へのマイクロチップの埋め込み又マイクロチップのない猫への対応についてご説明いたします。

杉並区では人と動物の共生できる杉並を目指して、昨年度「杉並区動物との共生を考える懇談会」を設置し、6ヵ月間の議論の後、平成17年12月に報告書としてまとめております。

この報告の「猫に関する施策」の中で、区内における飼い猫の実態を把握するとともに、自覚と責任をもった飼養を促進し、逸走や災害時などでの個体識別を容易にするために、区民の意識と理解状況を十分勘案しながら、猫の登録制について検討を開始することが必要であることを提言しています。

マイクロチップの装着に関しては、迷子札付首輪などと同様に登録促進策のひとつとして例示されております。

また、登録については、犬の場合のように狂犬病予防を前提とした捕獲・処分につながるものではないことを明言しています。

(1)猫の登録制について、区民の理解を勘案しながら検討を開始する。

(2)マイクロチップの装着は登録促進策の例示。

(3)登録は、捕獲・処分につながるものでない。

が、現在「杉並区動物との共生を考える懇談会報告」における考え方で、この考え方に沿って今後具体化の検討がされていくことになります。

また、飼い主のいない猫対策として、不妊去勢手術費用の補助を平成16年度から、実施しております。

この懇談会報告書は杉並区ホームページ公式サイト(「区政資料」→「報告書アンケート結果」→「保健・福祉」)への掲載や区内の図書館などで閲覧することができるほか、ご希望であれば杉並保健所生活衛生課の窓口で差上げることもできます。

ぜひ、ご一読いただき、今後とも杉並区の動物との共生の社会づくりにご理解、ご協力をいただければ幸甚に存じます。

担当課:生活衛生課

電話番号:03−3312−2111(代表) 内線4522

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杉並区役所区政相談課

ご意見、ご要望は下記ホームページへ

http://www.city.suginami.tokyo.jp/

メールでは受付けていませんので、ご注意ください。

区役所代表電話 3312−2111 

            内線3213〜4

FAX 3312−3531(区政相談課直通)

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