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猫の健康管理

このコーナーでは、neco家の猫たちの実体験から、猫の病気や治療、健康管理について知っておきたい情報をお伝えしようと思います。



猫の慢性腎不全 (CRF)

 

罹患猫
*らーちゃん(保護時成猫で年令不詳)

高齢猫の死因の中で最も一般的な疾患の一つが、慢性腎不全(Feline Chronic Renal Failure = CRF) で、15歳前後の猫の約30%が発症すると推計されています。CRFは、進行性で治癒することのない疾患です。しかも目に見える症状がないままに進行し、多飲多尿などの症状が出た時には、腎機能の70%が失われています。私たちにできることは、少しでも早期に発症を確認し、適切な食餌や療法によって、進行を鈍化させることです。そうすれば、愛猫たちが心地よく暮らせる時間は決して短くはないのですから。

愛猫のCRFを早く知るためにも、CRFについて情報を集めてみましょう。
まずは、腎臓のそもそもの役割から……

【腎臓の働き】
*尿素やクレアチニン等、体内の老廃物を濾過する
*電解質(カリウム、カルシウム、リン、ナトリウム)を制御する
*骨髄を刺激して赤血球の産出を促進するホルモン、エリスロポエチンを生成する
*血圧を制御する酵素であるレニンを生成する
*尿を作り出し、濃縮する

猫の腎臓には、約20万のネフロンと呼ばれる管状構造があり、体内の老廃物を濾過し、電解質を制御しています。CRFは、そのネフロンが懐死し始め、老廃物の濾過も、電解質の調整もうまく行かなくなる結果として起こります。濾過されなかった老廃物は体内に蓄積され、尿毒症などを引き起こしますし、電解質のバランスが崩れると、貧血や血圧の障害が現れてきます。

【CRFの原因】
CRFの原因は複合的である場合もありますが、原因要素としては、加齢、遺伝 、環境、他の疾患・既往症(高血圧、甲状腺機能亢進、下部尿路疾患、感染症、等)などがあります。近年、高血圧、カルシウム・レベルの低さ、酸化された食餌、歯科疾患などがCRFを進行させるものとして着目されています。
また、メインクーン、アビシニアン、シャム、ロシアン・ブルー、バーミーズ、バリニーズは、他と比して有為に高い発症率を示しているという報告もあります。

【観察できるCRFの症状】
*尿量が増える
*飲む水の量が増える
*吐き気がする
*唇を舐める
*顎の辺りでつぶしたり割ったりするような音がする
*嘔吐する
*よだれを垂らす
*脱水状態になる
*水の器に覆いかぶさるように体を丸める
*胃炎を起こす
*便秘する
*食欲が減退する
*体重が低下する
*筋肉が落ちる
*衰弱する
*皮毛がパサつく
*口臭(アンモニア臭)がする
*嗜眠する
*音に敏感になる
*ゴミを食べる
*沈鬱になる
*口腔に潰瘍ができる
*他者から離れる
*痙攣を起こす(末期)
*体温が低下する(末期)
*昏睡状態になる(末期)
上記の症状は、すべての猫に見られるわけではありません。

CRFの症状として一番気づき易いのが多飲多尿なんでしょうね。らーちゃんの場合も、気になり出したのは2006年の夏でした。この段階で、すでに腎機能の70%が失われているって、どういうこと?

猫の腎臓では、通常の役割、機能を果たすのに、わずか30%のキャパシティーで済みます。ですから、CRFが進行していても、正常な30%が残されているうちは、症状が出ないわけす。30%を割ったとき、はじめて異常が現れる、すなわち気づいた時には70%以上がダメージを受けていることになります。

もっと早く発症を確認する方法はないのかしら??

【CRFの確認方法】
7歳を過ぎたら、定期検診の際に尿検査、血液検査、血圧測定をお願いすると良いでしょう。尿濃度が薄い場合、腎臓が老廃物を濾過していないことを示します。血液検査ではクレアチニンと尿素窒素(BUN)等の値を測定します。クレアチニンの値の高さが腎機能低下のもっとも確かな指標となります。しかしながら、クレアチニン値の上昇も、腎機能が75%程度まで失われてはじめて出現しますので、必ず尿検査と一緒に行うことが重要です。
血圧と腎臓との関係は複雑です。腎臓は血圧の制御に重要な役割を果たしています。血圧が高くなると、腎臓のネフロンは正常域を越えた働きを課されることになり、一時期、CRFを隠してしまいますが、結局はネフロンの状態を悪化させ、CRFの進行を早めてしまいます。高血圧には、注意を要します。
また、口腔内(歯、歯肉)の検査も定期的に受け、歯石除去や歯のクリーニングをしておくと良いでしょう。口腔内の疾患によるバクテリアや、抜歯等の手術の際の麻酔はCRFに深く係わっています。口腔内の疾患に罹患しないためにも、日ごろの手入れは重要です。


そうかあ、らーちゃんも抜歯したことがあったっけ。
検査で早めにCRFを確認したら、どんな治療があるのかしら。

CRFは進行性で、治癒することはないので、いわゆる「治療薬」はありません。しかし、CRFの進行を遅らせることはできます。基本となるのは、腎臓に送られる老廃物の量を調整することです。残されたネフロンの濾過能力は限られているのですから、老廃物自体の量を減らしていけば良いのです。これには、食餌、投薬、輸液を組み合わせて行います。

【食餌療法】
病院で処方される療法食にします。療法食は、たんぱく質やリン、ナトリウム、カリウムの含有量が適正にコントロールされています。また、N3系脂肪酸やビタミンB群が強化されています。



らーちゃんも療法食をいただいた時は、しぶしぶでも食べてくれたけど、すぐに食べなくなってしまって。猫の食餌を替えるのは容易ではないですよね。

最近の療法食は、食いつきや食欲促進、消化にも配慮されていますが、急に替えるのではなく、徐々に根気よく。思うように食べない時には、獣医師に相談してください。
ちくわやカニかま、煮干しなど、塩分の高い人間の食材に慣れていると、療法食への移行は、一層困難になります。猫が喜ぶからと言って、人間の食材を安易に与えないよう、幼児期から気をつけることが大切です。

【体内有害物質の吸着・除去剤の投与】
限られたネフロンの負担を軽減し、有害物質を体内に蓄積させないよう、腸管で有害物質を吸着させ、便と一緒に排泄させるように開発された健康補助食品があります。コバルジン、ネフガード、クレメジン等の名称で、見た目も主原料も活性炭。いずれも活性炭が獣医師から処方されます。指示された分量を食餌に混ぜて与えます。食後、食前等に関係なく、一日量を数回に分けて与える方が効果的です。ただし、他の薬を服用しているときは、その有効成分まで吸着する可能性があるので、1時間以上時間をずらして与えます。


らーちゃんも、2007年の5月からネフガードを一日1スティッック飲んでいます。処方のきっかけになったのは、この時に急性の膀胱炎を起こしたからです。鮮血が飛び散っているのかと思うような血尿に、慌てて夜間急診車を呼び、処置していただきました。その際、腎臓の検査をするよう勧められ、翌日、掛かり付けの病院で検査。CRFがかなり進行していることが判りました。当時の見立てでは、同年の年末まで持つかどうか、ということでした。以来、ネフガードを朝晩、2回に分けて与えてきました。食餌に混ぜると全く食べないので、ぬるま湯(3cc程度)に溶いて注射器で飲ませています。食餌も療法食にすべきなのですが、CRFの進行具合から、食欲を優先させて、高齢者用のフードを食べています。
年末に猫風邪を引き、4日ほど輸液と投薬を行いましたが、無事快復。当初の命の期限を越え、越年することができました。
ネフガードを使って1年以上になりますが、便秘、下痢などの副作用も見られません。

【輸液療法】
CRFが進行すると皮毛がパサつき、脱水が見られるようになります。この改善には、皮下輸液治療が有効です。この時、失いがちなビタミンの補給もします。輸液を定期的に行う場合が多く、尿毒症の進行につれて頻度も多くなります。獣医師に通うストレスを軽減するために、自宅での輸液療法を勧められることもあるでしょう。猫の状態、性格等を考慮しながら、十分に獣医師と相談してください。


らーちゃんも、2008年6月から週に一度輸液に通うようになりました。皮毛のパサ付きと脇腹の凹み(体重の減少)が目立ち始め、目も以前のような輝きを失い、辛そうに見えたからです。延命というより、残された時間を少しでも快適に過して欲しいという思いからでした。血液検査の結果も、リンの値が上昇し、末期にきていることを示していました。
口の回りを舐めることもあったので、おそらく吐き気もしていたことと思います。輸液の際は、ビタミン剤と吐き気止めも一緒に注射していただいています。
輸液後も皮毛のパサつきはあまり改善されてはいませんが、口の回りを舐めることもなくなりました。食欲はあり、体重も6月当初の4.2キロを維持しています。辛そうな表情も消え、目にも生気が戻ったような印象です。
大好きなかつお節も、ご飯に混ぜて、タンパク質量を下げるように、との指導に従い、昔懐かしい「猫まんま」をあげていますが、炊きたてのご飯ならぺろりと平らげるのに、保温されたご飯だと見向きもしません。(笑)

状態は横ばいですが、この先、どんな状況が待っているのか……

末期になり、尿毒のレベルが上がると、全身的な衰弱感や不快感が増してきます。同レベルに進行した腎不全の人は、『痛み』ではなく、憔悴感を訴えています。特に脱水したときに、その症状が顕著になります。ですから輸液療法を、「苦痛を引き延ばすだけのもの」と捉えるべきではありません。終末期に痙攣を起こす場合もありますが、腎不全の主な症状は不快感、衰弱感、吐き気などです。

以前に亡くなったチビタも痙攣を起こしたっけ……。あの時は慌てて口の中に手を入れて、舌を噛まないようにしたけれど、痙攣で舌を噛むことはないと教えていただきました。痙攣が起こったときは、家具などで頭や体をぶつけないように注意し、至急獣医師の診断を受けてください。
ところで、食餌療法や有害物質吸着剤や輸液の他に療法はないのかしら?

人間の場合と同様、腎移植や人工透析などの道もあります。猫にとっての負担と改善のバランス、費用等も考慮に入れ、何がベストかを獣医師と十分に話し合ってください。
最後にCRFの猫たちへの日常のケアをリストアップします。
【日常のケア】
*できる限りリラックスできる環境を作り、十分な睡眠と休息が取れるようにする
*新鮮な水を切らさず、身近に置いておく
*できる限り獣医師の処方による療法食を与える
*良質なタンパク質を適量与える
*トイレは使い慣れたものを使用する
*まめにブラッシングする

そして貴方のあふれる愛情を注ぐこと、ですね。



【参考文献】
http://www.felinecrf.com/what0.htm

http://www.pet-hospital.org/cat-011.htm

http://www.kyowa.co.jp/news/1999/19990920_01.html

http://www.gyaos-kingdom.com/medicine/medicine2.html