2005年正月猫模様 その3(H.17.1.17)

【エリちゃん】
neco家の家族になった時期:2000年4月20日頃
誕生日:2000年3月のある日
<家族になった経緯>
6匹兄妹の中で最後に保護されたのがエリちゃんだ。ロッキーママが3匹の赤ちゃんを私の掌にのせてくれた後、残る赤ちゃんの保護には手を焼いた。彼らの生活空間は、人もカラスも入れないビルとビルの隙間だから、どうにかしておびき出すか、遠隔操作しか手がない。手を変え品を変え、仕事そっちのけで保護作戦を繰り返すも、芳しい成果があげられずにいたある日、社員の一人がお誂え向きの柄の長〜い網を見つけてきた。2階のベランダから地面にまで届くその網は、まさにこのために神様が用意してくれたような物だった。首尾よく1匹、2匹と保護できたのだが、最後の一匹には苦労させられた。もたもたしているうちに、赤ちゃんはどんどん大きくなり、活動範囲は拡がって、こちらの怪しい動きから身をかわすようになったのだ。ビルの壁には排気孔がいくつも開いている。その穴から穴へと渡り歩かれては、どうすることもできない。ようやく『御用』となったとき、このお転婆娘のもの凄い臭いに思わず鼻をつまんだ。何しろ、隠れていたのは、飲食店の排気孔だから、肉、魚、油、ニンニクといった匂いが混じりあった、とんでもない臭いを放っていたのだ。すぐに事務所のキッチンで体を洗い、タオルで三色の毛を乾かすと、アイシャドウを引いたような、一際大きな目のべっぴんさんが現れた。6匹兄妹の唯一の女の子は、銀座のチーママのような風情で、エリザベスと命名された。お嬢は、6匹兄妹の上から3番目と目されているが、もちろん根拠などない。
<2005年正月近況>
男嫌いで、独り2階で過ごすことの多かったエリちゃんも、朝な夕なドタバタ駆け回る子猫たちの無遠慮さに負けたのか、1階のテレビの脇に日中の陣地を移した。その他大勢を一渡り上から眺められるし、エアコンの温かい風が体を包む特等席だ。1階にいれば、男兄弟と触れあう機会も多く、その度に耳を後ろに寝かせて「ハーッ」を連発しながら、日々追いつ追われつの大混乱を引き起こしている。エリちゃんの一番の好敵手はトンちゃんだが、まれに静かなぬーちゃんが相手のこともある。ぬーちゃんはめったに事を構えない分、一旦争いが始まったら決して諦めない。あの巨体にどこまでもどこまでも追い掛けられては、さすがのエリちゃんも白旗を挙げるしかない。このように書くと、エリちゃんが、いかにも好戦的なように写るが、実際は、傍に寄られるのを嫌っているに過ぎない。エリちゃんが、傍に来ることを許しているのは、らーちゃんとチビタだ。自分の男兄弟のこの2匹に対する扱いを見て、せめて自分だけは、と考えているに違いない。独りでいるに越したことはないが、この2匹が来ても何とか我慢して、決して手を出すことはない。
エリちゃんは、威張りん坊のお転婆娘で、男どもは喧嘩しながらも一応一目置いているところがあるが、まったくお構い無しなのが、子猫4匹。この4匹がやって来たとき、エリちゃんが母性本能の一つも見せるかと思ったのだが、そんな素振りは全く見えなかった。子猫の方も良く承知していると見えて、偶然以外に、エリちゃんの傍に寄ることはない。その偶然で、子猫がそばに来ると、エリちゃんは、1メートル場所を移す。
そんなエリちゃんにも大好きなひとがいる。お父さんとロッキーママだ。毎晩、「エリちゃん、寝るよ」というお父さんの一声に、ミヤ〜と甘い声で返事してから、一緒に2階に上がっていく。しばらくお父さんの足に顎をのせて一緒にテレビを見てから、枕を並べて横になる。(エリちゃんの枕には熱帯魚の模様がついていて、男兄弟の羨望の的だ。)だが、お父さんが寝入ってしまうと、すぐに私のベッドにやって来て、掛け布団のど真ん中にどっかと体を投げ出し、朝まで眠る。お蔭で、私は、真直ぐ足を伸ばすことも許されず、ベッドの端で窮屈を我慢するしかない。エリちゃんのこの移動、お父さんの寝相が悪いから、というのが本当のところだろうが、お父さんはゆっくり寝かせてあげる、という気遣いのようにも受け取れる。
外で暮らすロッキーママにはめったに会えない。窓という窓に換気ロックが設置されてからは、脱走するチャンスも奪われ、ママとの面会はますます難しくなった。時折お父さんがエリちゃんを抱いてママの部屋を訪問する。エリちゃんは、嬉しそうに生みの親に顔を寄せる。ここで母子の感動的な対面を想像してはいけない。何しろロッキーママは「ハーッ」と威嚇してみせるばかりなのだから。でもエリちゃんは驚く様子もなく、日頃ついぞ見せることのない、穏やかな眼差しでママを見つめ続ける。エリちゃんの体から、一方通行の思慕の念が溢れ出ているようで、見ている者の胸まできゅんとなる。どんな形であれ、母子の姿はやはり感動的だということだろうか。
ひとたび家に入ると、エリちゃんの背中は再びきりりと引き締まる。テレビの横から周囲を見渡す目の光は強く、自称女王の威厳を取り戻している。

【宮沢さん】
neco家の家族になった時期:2000年4月15日頃
誕生日:2000年3月のある日
<家族になった経緯>
柄の長い網に掬い取られるようにして保護された。両目の上にお公家さんのような点があったことから、宮沢元首相にちなんで宮沢さんと命名。ロッキーママのお乳を人一倍たくさん飲んでいたのか、保護した時点で他の兄妹より体が一回り大きく、赤ちゃんというには違和感があった程。当時は両耳だけが茶色で、あとは真っ白だったが、次第に体にも顔にも茶色の縞が不揃いに現れて、毛色を一言で表現できなくなった。気質も茶トラと白優勢の丁度まん中といった感じだ。上から4番目の三男坊。
<2005年正月近況>
宮沢さんと云えば、卓越した集中力が特長だ。ひとたび何かに集中すると、周囲の空気までがピンと張り詰めたようで、端で声を出すのも憚られるほどだが、このところ、そんな場面に出くわさなくなった。相変わらず日曜日朝のNHK、「さわやか自然百景」は熱心に見入っているが、その姿にも余裕が感じられる。年齢が生み出すゆとりなのだろうか。子猫がやって来てから、一時元気がなくなり、それまでの習慣をすべて忘れ、惚けたようになったことがあった。病院にも行ったが、薬があるわけではなかった。1ヶ月もしない内に、目に光が戻ったのだが、あの怖いほどの集中を見せなくなったのは、この時からかもしれない。
もっとも、おしゃべりは相変わらずで、大きな声で喋りながら2階から階段を降りて来る様子など、猫のものとは思われない。いずれ人間の言葉を話すだろうと信じているのだが、残念ながら今のところは『宮ちゃん語』のままだ。しかし、こちらが話す日本語はちゃんと理解している。もっと積極的に日本語教育をすれば、「まま〜、好き〜」位は今年中に言えるようになるかもしれない。
宮沢さんは、誰に執着するでもなく、誰を疎ましく思うわけでもない。トンちゃんや子猫が来れば一緒に眠るし、独りなら独りで良い。夜は毎晩おばあちゃんと枕を並べて眠るが、いつもの自分の場所にニセドがやって来れば、反対側に移って眠る。譲歩しながら、人とぶつからずに自分の気持ちを満たすことを考える。例えば、私に独り甘えたい時は、一緒にトイレに入って来て、膝に手を掛ける。お風呂では湯舟の蓋の上に乗って、私のおでこに顔を擦り付ける。こんな秘密めいた空間は、宮沢さんを大いに満足させている。私も、「お風呂くらい独りで入らせてよ」と嫌がって見せるものの、その実、お風呂での密会を楽しみにしているのだ。