キャラリンのプレゼント(H15.10.9)

今回、キャラリンが戻ってきて、3週間以上が経っている。食欲が落ちることもなく、これまでになく体調も良さそうに見える。口内炎と思しき質の悪い病気とも、もしや縁が切れるのでは、と淡い期待を抱くほどだ。
そのキャラリンが、昨夜、思いも掛けないプレゼントを携えて、散歩から戻ってきた。どこで仕留めたのか、ハツカネズミほどの子ネズミを口にくわえ、居間のガラス戸の前にきちんと座るその姿は、喜びと自信に満ち溢れているようだった。ネズミと言えば、渋谷駅で信号待ちをしている時や、目黒の駅で電車を待っている時に、巨大なネズミが駆け抜けるのを見たことはあれども、家の近くで目にすることはなかった。普通なら腰を抜かすような光景だが、ネズミの小ささと、キャラリンの恍惚とした表情に、思わず顔がほころんだ。
「キャラリン、すごいね、どこで捕まえてきたの?」
「キャラリン、すばらしいプレゼントをありがとう」
母と、代わる代わるねぎらいの言葉を掛けたが、やはりガラス戸だけは開けらない。
キャラリンは、一旦獲物を置き、自分のご飯皿を覗く。お皿には食べ残しが幾分残っていたが、それを食べるでもなく、再び、獲物をくわえ、ご飯皿の中に入れたものか、入れないものか、逡巡している。結局ご飯皿には入れないことにしたキャラリンは、獲物の子ネズミで遊び始めた。
しばらくすると、キャラリンは、ご飯をねだる時のように、ガラス戸に手を付いて、後足二本で立ち上がる。もちろん、ご飯をねだっているわけではない。せっかく獲物を持ち帰ったというのに、ガラス戸を開けて受け取ろうとしない私たちに、何かを訴えたかったのだろう。
それでも、キャラリンの持ち帰った獲物に興味を寄せる者がいた。近くに居あわせたトンちゃんとぬーちゃんだ。二匹はガラス戸に鼻を押し付け、おもちゃ以外には見た事もないネズミに見入っている。トンちゃんは、必死にガラス戸を開けようとしたが、ロックされたガラス戸はビクともしない。それなら、とウッドデッキに回り、ラティスの穴から腕を精一杯伸ばしている。ネズミは取れそうで取れない、絶妙な位置に置かれている。トンちゃんは再び居間に戻り、ガラス戸に鼻を押し付ける。
こうして二匹の羨望の眼差しを受けたキャラリンは、気を良くしたと見え、獲物の上に覆いかぶさるようにして眠ってしまった。いつもは、ログハウスに入って眠るのに、今宵だけは、獲物と共に星空の下で寝る趣向のようだ。

それにしても、ガラス戸を挟んで臭いも届かないというのに、ネズミのネの字も知らない猫が、どうして反応するのだろう。子ネズミは、すでに息はないらしく、ピクリともしないというのに。

明け方きっと寒くなったのだろう、朝起きてみるとキャラリンはログハウスに移って眠っていた。ネズミは、寝返りしたときにでも落ちたのだろうか、食われることなく、地面に横たわっていた。

持ち帰ってくれたプレゼントを受取ることはできなかったけれど、キャラリンとの心の距離がまた一歩縮まったような気がする。