平成23年正月猫模様(H23.1.20)

このお正月を共に迎えたneco家の猫たちは10匹。
ロッキーママの子供で、ロッキーの弟たちである6匹兄弟は、昨年8月の猛暑の中、ゴンちゃんが旅立ち5匹となった。この5匹も今年の2月で満11歳となる。人間の年齢に換算して60歳、還暦を迎えるわけだ。ついに私の年齢を追い越す彼ら。60歳は耳順、人の言うことを逆らわずに聴ける年齢、ということだが、neco家の5匹兄弟からは、その片鱗も伺うことができない。

相変わらず、宮沢さんを中心に場所取りの小競り合いが絶えずにいる。母亡き後、猫たちだけで日中を過ごすようになったが、その間に取っ組み合いのケンカが勃発しているのではないか、昨年一年間、気が気ではなかった。幸い、トンちゃんのものと思われる毛が廊下に散乱していたのは1回きりで、更に運の良いことに、以前のように、縫合しなければならないような傷は負わずに済んだ。そんな結果オーライは何度も期待できるわけではない。未然に防ぐことができれば、それに越したことはない。朝の気配、特に宮沢さんの腹の虫の居所が悪そうな時には、宮沢さんにエリザベス・カラーを付けて出掛けることにした。このハンディがあれば、おおよそのケンカは防げるはずだ。最初は宮沢さんもさして嫌がらず、良いアイディアと思われたが、度重なるうちに、さずがの宮沢さんもエリザベス・カラーを目にした途端に逃げ惑うようになり、強引に付けると食べたものを吐くなど、神経症のような症状を見せるようになった。以来、怪しいと思われるときは、宮沢さんを、折り合いの良いシマやモナコと一緒に、2階の1室に閉じ込めて家を出るようにしている。

血を分けた兄弟には恐れられる宮沢さんだが、猫大好きの4匹兄弟には慕われる。

宮沢さんの攻撃の対象は、ニセドとトンちゃんだが、ニセドは、数年前に体中を縫合するようなケガを負って以来、君子危うきに近寄らず、逃げるが勝ち、を体得した。宮沢さんに追われると、猛烈な勢いでどこまでもどこまでも逃げる。逃げ通す。お陰で、宮沢さんも戦意喪失。事なきを得ている。人一倍大きな体で必死に逃げる姿は、滑稽でもあるが、長男の甚六を地で行くニセドには似合っているのかもしれない。


図体は大きいが、邪気のない、お人好しなニセド。
長男の甚六を地で行く。

 

一方のトンちゃんは、宮沢さんとのケンカで大きなケガを繰り返しているというのに、一向に学習をしない。ニセドのように逃げれば良いものを、変なところで男気を出す。取っ組み合えば一方的にやられるだけなのに、売られたケンカは買ってしまう。時には自らケンカを売ってしまう。
宮沢さんとの諍いが絶えないのは、犬猿の仲でありながら、思考パターン、行動パターンがそっくりだからだろう。私たちの食事の時、宮沢さんがお父さんの隣でお酒のお伴をすれば、トンちゃんは私の隣で魚料理をご相伴、という具合だ。2匹ともことのほか人間が好きで、甘えん坊。神経が細かく、観察眼も鋭い。だから、お互いに相手が何をしているのか、常に目の端で捉え、焼きもちを焼いたり、対抗意識を燃やしたり、しかもすぐに火がつく性格だ。こうなったら出来る限り火種を作らないように人間の側で気を配らなければならない。やれやれ。
そのトンちゃんも、今は「綱吉」と呼ばれている。家の中の猫にしては珍しく、冬になると体に脂肪を蓄える。レクサスのマークのように鋭角に曲がった尻尾、がっちりとした太腿……後ろ姿はまるでシバ犬のようだ。


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いつまでもお子ちゃまのトンちゃん。この写真は凛々しく見えるが……

 

5匹の中で、一番変化があったのは、ぬーちゃんだ。9キロあった体重が、昨年秋には7.5キロになった。今はおそらく7キロ前後だろう。人間の体重にすれば20キロ減ということになる。もともと体の割にすっきりとしていた顔も更に一回り小さくなり、背中をなでると背骨の凹凸がはっきりと判る。大きなお腹は萎み、伸び切った皮がだらりと垂れ下がっている。急な変化に、心配もしたが、本人は体調すこぶる良ろしいらしく、これまで体重が邪魔をして飛び乗れなかった、飛び乗ろうともしなかった場所に上ってみたり、走ってみたり、と運動量が俄然増えた。食欲も旺盛だが、リバウンドの兆候は見えない。
今は、ニセドやシマの方が重いはずだが、以前利かせた大猫の威厳はそのまま有効らしく、自分が座りたい場所に先客があっても、上から一睨みしただけでその場所を自分のものにしている。


大きなベッドも、ぬーちゃんとニセドの2匹は入り切らない。
今ではニセドの方が大きくなった。

 

5匹兄弟の紅一点、エリちゃんは、今の家に越してから、私たちの寝室の中だけで暮らしている。前の家では、男兄弟には追い回され、トイレに入っている無防備な時にコエリとレオナに波状攻撃をされ、決して好戦的ではないエリちゃんは、寄るな、触るな、と始終悲鳴を上げていた。引っ越しの少し前、私の目の前で、キッチンのど真ん中にかがみ、溜め込んだおしっこを全部放出。私は、エリちゃんを抱き上げて、ひたすら謝った。エリちゃんを一人にすること、それが唯一の解決策だった。
私たちが朝寝室を後にしてから夜戻るまで、エリちゃんは独りぼっちだが、箱入りのそのまた箱入り生活にそこそこ満足しているらしい。さずがに、夜寝室に戻ると、「猫じゃらしで遊んで」と私たちそれぞれにせがみ、それが私たちの就寝前の日課となった。寝るときは、私のベッドとお父さんのベッドをはしごしている。


お父さんの膝を独占するエリちゃん

 

会社の外猫さん、ズレータの兄弟で、我が家に保護された4匹も今年6歳となる。人間年齢でアラフォーだ。ロッキー家の5匹がそれぞれ個性的なら、こちら4匹もまた個性的。同じ腹の兄弟で、こんなにも違うものかと感心するのだが、それでもロッキー家の人間好きに対して、この4匹は猫好き、と血縁によって大別される。猫好きのお陰で、先住猫とのトラブルは皆無。4匹の中でもシマは別名『ひっつき』と言われる程、誰かしらにひっついていないと夜も日も暮れない。シマのひっつきに一番悩まされているのは宮沢さんだ。誰しも慕われて悪い気はしないが、度を越せば辟易とする。だからと云って邪険に扱うわけにもいかない。宮沢さんが気の毒に思うことも度々だ。寒いこの時期、猫ベッドはエアコンの温風がふんわり下りてくるベストエリアに並べてあるが、宮沢さんがベッドに横になると、シマは8キロ超の立派すぎる体を強引にねじ込んで来る。隣のベッドが空いていようが関係ない。宮沢さんが、帰宅した私たちを玄関で出迎え、頭を私の足に擦り付けていれば、その間に自分の頭を突っ込む……という具合だ。一向に独り立ちしないアラフォー……困ったものだ。


一番小さい猫ベッド、一匹できちきちなのに、シマはおかまいなしだ。

 

 

レオナはかなり前から『レオジ』と呼ばれている。レオジに特別な意味があるわけではない。もっぱら音の響きによるものだ。レオジ……皆さんはどんな印象を持たれるだろうか。軽やかに舞うような姿を想像する方は、まずいないのではないだろうか。グレーの毛色から、子猫の時はロシアンブルーが掛かっているのかもしれない、と思ったのだが、どんどん膨らむ脇腹を見ながら、シャルトリュー、ブリティッシュ・ブルーと見解を訂正していった。顔は、日本猫の愛くるしさそのままだから、何とも云えないコントラストだ。ロッキー家の為にドライフードはシニア向けを常時3種類置いてあるのだが、「あたしには若者向けのフードを頂戴!」とレオジは毎度せがむ。お父さんはせがまれるままに、別の場所に若者向けフードを用意するが、それが嬉しいのか、レオジはお父さんの足元で、サルサを踊るように回り続ける。若者向きのフードが目の前に置かれてもサルサは止まらず、こともあろうにぬーちゃんが漁父の利を得ることになる。そうこうする内に、若者向けフードコーナーには1匹、2匹、3匹と集まり、慌てたレオジは4番手か5番手でかろうじて口にすることができる。それでもレオジはたっぷりとお腹に脂肪を付け、今では両手を揃えて座ることさえできないらしい。手を7、8センチ離して座る、締まりのない正座姿勢をneco家では『レオジ座り』と命名した。『レオジ座り』は似た体型の面々に広がり、今ではニセドとシマもレオジ座りを採用している。

これが元祖『レオジ座り』。

 

ズレータを含め5匹兄弟の長女と思われるコエリちゃんは、極端に警戒心が強く、風邪を引いて病院へ連れて行ったときに診療を断られたという経験の持ち主だ。引っ越しの時も、最後まで抵抗し、オーブンミトンを嵌めた手で覚悟して捕まえたのだが、案の定手にはいくつも穴が開いた。コエリちゃんを撫でるなど、夢のまた夢……と思っていたのだが、その夢がついに叶った。もっとも条件付きではあるのだが。コエリちゃんは、このところ、エアコンの温風が一番心地よい、アームチェアの背もたれの上を占有している。そこに体を投げ出していると、身も心もとろけてくるらしい。胸の奥底に氷になって隠されていた「甘えたい」という気持ちが溶け出してきて、誰かが側を通る度に「撫でて、撫でて」と体全体でアピールする。一旦撫で始めると、5分は解放してもらえない。最近では甘噛みも覚えた。おばあちゃんは、天国から「信じられない」という面持ちで、この光景を眺めていることだろう。だが、油断は禁物。撫で方が悪いか、撫でる箇所を間違えたか、あるいは度が過ぎたか、理由は判らないが、突然猫パンチが飛んでくる。つい一週間前、私は右頬に猫パンチを往復で喰らい、流血騒ぎとなった。血を拭ったティッシュを見せると、さすがにコエリちゃんもすまなそうな顔をしていたが、「もっと撫でて」と言っている間に切り上げるのが、血を見ないコツなのだろう。コエリちゃんを撫でられるのは、お気に入りの椅子の背もたれの上か、サイドボードの上、と今のところ2カ所だけだが、6年近くかかって漸くコエリちゃんと体温の交換ができるようになった。

コエリちゃんも、こんな安心しきった表情を見せるようになった。

 

 

兄弟の残る一匹、モナコは、外猫として会社ビルに残ることを選んだズレータと瓜二つ。外見もそっくりなら、ズレているところもそっくりだ。比較的一人で行動することが多いもの、微妙なズレが原因なのかもしれない。実は、その一人での行動が問題含みで、「あたし、悪戯なんてしません」という顔をしていながら、家の家具についた爪痕の90%強はモナコのものだ。前の家に置いてあった革張りのアームチェアがモナコによって全面マジックテープのようになってしまった為、引っ越しの折に購入したソファもアームチェアも合皮製を選んだのだが、その甲斐なく、1カ月後には布製のカバーを掛けなければならない状態になった。布製のカバーは、外の猫たちが上ったり、宙づりになったりして、今や糸くずの束と化しているが、モナコはカバーをくぐって本体の合皮をマジックテープ状にする作業を続けている。「こらっ!」と大声を上げると、すぐに逃げはするのだが、逃げるコースは決まっているし、逃げっぷりも嬉々として見える。モナコにとってはまさにゲーム感覚なのかもしれない。
事務所入り口にneco家の猫たちの写真が貼ってあるのだが、最近「可愛い〜」と一番人気なのがモナコだ。保護した時、かなり不細工な顔立ちで、美猫に育つようにと、モナリザ(モナリザを美人と思ったことはないのだが)をもじってモナコと名付けたのだが、効果覿面、モナリザを凌ぐ美猫となった。大きすぎるほど大きくなった目はカプリ島の青の洞窟色。決して冷たい目ではないが、内面は容易には読み取れない。神秘的というのではなく、ズレているが故の予測不能、といったところなのかもしれない。昨年、歯槽膿漏で痛がっていた歯を4本抜歯したのだが、痛みが取れたのが嬉しかったのか、通院や抜歯後の薬の服用などで特別な処遇を受けたと思ったのか、人間との距離がぐっと縮まった。それでも予測不能はそのままで、これがモナコの魅力なのかもしれない。

モナコの爪あとだらけになった椅子のボロ隠しに被せたカバー。
それも今は、ご覧の通り糸くずの束と成り果てた。
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Neco家の最年少、クーちゃんも今年4歳となる。30歳、而立である。人間も含めてneco家で孔子様の語る年齢に相応しい存在は、クーちゃん一人だろう。
しっかりと自分を持ち、誰にも迎合せず、毅然としている。日が上っても、皆はエアコンの下の猫ベッドで寄り添いまどろんでいるのに、クーちゃんは、一人二階の日向に身を置き、窓越しに木々の梢を眺めている。そのスリムな後ろ姿は、古代ギリシアの哲学者さながらだ。
そんなクーちゃんが常に気を掛けているのがトンちゃんだ。たった一匹でneco家に迷い込んだ幼いクーちゃんが、当時11匹いた先住猫の中での暮らしに早く馴染めるように、と相棒に選ばれたのがトンちゃんだった。この選択は予想以上の効果を上げた。遊びたい盛りのクーちゃんに、歳はとっても精神年齢が一向に増えないトンちゃんは、最高の相棒となった。一緒に遊び、一緒に眠る。それは3年半が経った今も変わらないが、もはや同等の相棒ではなくなったようだ。Neco家には珍しくスリムなままのクーちゃんは、綱吉と呼ばれる程脂肪をつけたトンちゃんの横で、一層小さく見えるのだが、そこから漂う気配は、まさに母と子なのだ。寝付きの悪いトンちゃんは、眠くなると大泣きするが、そこにすっとクーちゃんが現れ、2匹で心地よく眠れそうな場所に身を横たえる。それを見たトンちゃんは、ほっとしたようにクーちゃんの脇にうずくまる。クーちゃんは、トンちゃんの半分の太さしかない華奢な腕をトンちゃんの体に回して抱きかかえ、一生懸命舐めてあげる。トンちゃんはごろごろと喉をならして、クーちゃんを一舐めし、また頭をクーちゃんの脇の下に埋める。役割は変化しても、2匹とって至福の時なのだろう。
クーちゃんも人間はあまり好みではないらしく、触ろうとすると、「パツン」という破裂音を出して威嚇したものだが、その「パツン」も久しく聞かなくなった。抗議は「ミーッ」という声に代わり、香箱を作って目を閉じている時や、トンちゃんと一緒の時は、撫でられるままになっている。もっとも撫でられて喜んでいる様子はなく、じっと我慢しているというところだろうが。
年齢順に生涯を終えるとするなら、いずれクーちゃん一匹が私たちの友となる日がくるのだろう。最近、そんな光景を想像することがある。その光景は、なぜかセピア色をしている。

かいがいしくトンちゃんのお母さん役を務めるクーちゃん。

 

お三が日、会社の外猫さん4匹の給食当番で事務所に通った。今では、ステーキ屋さんに加えて、ビルの管理人さんも給食のお手伝いをしてくださるようになり、休み中の給食当番もずいぶん減った。ありがたいことだ。
寒に入って以来、東京も例年より寒い日が続いているが、4匹は冷たいビル風が吹き荒れる中、毎朝食事用のバスケットを持った私を待っていてくれる。水を打ったコンクリートはさぞ冷たかろうと、手を握ってみて驚いた。肉球はほんのり温かいのだ。彼らは本当に逞しい。許されるなら、人目につかないところに小屋を置き、カイロでも入れてあげたいのだが、ペット禁止のマンションビルの敷地内でご飯をあげることを黙認していただけるようになるまでにも、かなりの時間はかかったわけだから、不用意に小屋など並べたら、ご飯さえあげられなくなるに違いない。どこで寝ているのか、寝坊してご飯に遅刻することの多いズレータの体は、真冬でも温かい。おそらく隣のビルの地下に潜り込んでいるのだろう。それで良しとしなければならない。暖を取ることのできない彼らに、せめてものプレゼントと思い、お水の代わりにぬるま湯を入れているのだが、あっちゃんは不審に思うのか、ちょっと口を付けただけで飲もうとしない。私の要らぬおせっかいということだろう。

ホワイトソックス、タマ、ズレータの3匹は、離れることなく共に暮らして6年になる。ズレータとタマは従兄弟同士、ホワイトソックスは叔父に当たる。血縁とは云え、男3匹がこれほど長い間、一緒にいるのは珍しいのではないだろうか。
ホワイトソックスは♂2匹、♀2匹の4匹兄妹で、母親と一緒にステーキ屋さんにご飯をもらいながら、今の根城で暮らしていた。♀2匹は、生後1年も経たない内に相次いで出産。その子育ては見事な共同保育だった。母親たちが散歩にでかけている間は、ホワイトソックスがしっかり子供たちを見ていて、子供たちだけが残されることは決してなかった。
私が彼らの存在に気づき、子猫の保護だの、避妊・去勢だの、とにわかに環境がせわしくなって、ホワイトソックスの兄妹たちは群れを離れていった。今の場所に定住したのが、ホワイトソックス、タマ、コアネ(♀)、ズレータの4匹だったのだが、唯一の女の子、コアネも、突然降って湧いたように群れに加わったあっちゃんに追い立てられるように、姿を消した。現在のメンバー、ホワイトソックス、タマ、ズレータ、あっちゃんの4匹となって、もうじき2年になる。

この4匹が一つの家族のようにまとまっていられるのも、ホワイトソックスの存在があってのことだろう。もう随分前のことになるが、とっておきのご馳走をもって行った時のこと、いつもの場所にはホワイトソックス一匹しか居なかった。さっそく一切れホワイトソックスに渡すと、あっという間に平らげた。私の手にはもっとたくさんのご馳走が握られている。普通なら「もっとくれーっ」とせがむところだが、ホワイトソックスはやおら皆の根城の方に向きを変えて、大きな声でないた。「おーい、旨いものがあるぞー。早く出て来いよ」そう叫んだのだろう。タマ、ズレータ、コアネが寝ぼけ眼で次々に現れ、限りあるご馳走を4匹で分け合うことになったのだ。
そんなホワイトソックスだから、さぞかし頼りがいのある、逞しい叔父さんなのだろう、と思われるに違いない。ご想像の通り、ホワイトソックスはしっかりとした骨格に必要な筋肉をしっかりと付け、大きいけれど決して肥満ではない、素晴らしい体躯の持ち主だ。だが、頼もしいのは見かけだけ。縄張りを荒らしに余所者が現れようものなら、それはそれは大騒ぎとなる。人一倍通る大声で威嚇するのは確かにホワイトソックスだが、彼は、必ずタマを前に出し、ずっと下がったところで声だけ上げているのだ。タマは背中を押されるように最前線に立たされ、取り敢えず悲鳴にも似た鳴き声を上げる。ズレータとあっちゃんも何事かとやっては来るが、吾関せずの姿勢。余所者とタマの声のトーンがどんどん上がり、いざ一戦、というタイミングで飛び出すのは、誰でもない、ステーキ屋さんのご主人だ。タマがケンカなどできないことを良く知っているのだ。
ホワイトソックスの威嚇の声は、2階の事務所にも良く聞こえてくる。慌てて覗きに行くのだが、その鼻先に敵が居たことはない。あちこち探して、数十メートル離れたところに敵を発見するのが関の山。無理もない。毎朝ご飯のバスケットを下げた私の足音をいち早く聞きつけて、姿も見えない内から歓迎だか、催促だか、大声で鳴くのもホワイトソックスだが、その時でさえ、4匹の最後尾にいるのだから。こんなホワイトソックスの臆病と人間のおせっかいのお陰で、この家族は、耳にも傷一つなく、つつが無い生活を送っている。

本当は甘えたいのに、いつも手の届かない距離を保っているホワイトソックス。

タマは、4匹の中で、ご飯を食べた後でも撫でさせてくれる唯一の猫だ。今では、管理人さんや上階のマンションの住人にも可愛がられている。だっこはあまり好きではないが、かがんだ膝に乗せてやると、私と同じ方向を向いて香箱を作り、静かにのどを鳴らす。このひとときがタマのお気に入りらしく、決して自分から下りようとはしない。タマの体温を腿に感じ、穏やかなごろごろの響きを胸に受け止めながら、タマと一緒に朝の空を眺めるのは、私にとっても至福の時だが、悲しいかな、山と積まれた仕事が待っている。気の済むまで、こうしてはいられない。タマを膝から下ろす時は本当に切ない。
今、タマは、しっかりと脂肪を蓄え、冬仕様の体型となっている。夏に向かえばちゃんとスリムに変身するから、肥満は気にしないことにしている。

冬仕様のタマ。凛々しい面構えだが、頼りにならないのは、叔父さん譲り。


ズレータは、相変わらずマイペース。皆と一緒に食べるご飯も、ドライフードには見向きもせず、猫缶だけをがっつく。人一倍早く食べて、誰よりもたくさん缶詰をもらおうとやっきになる。その鼻息の荒さに負けそうになるが、ドライフードも一生懸命食べるホワイトソックスやタマが割を喰わないよう、公平に配分する。満足いくまで缶詰が食べられないズレータは、ルーフバルコニー伝いに2階の事務所にやって来ては、お気に入りのドライフードを食べて行く。一日に4回も5回もやって来る。この事務所のことは、もう隅々まで知り尽くしているのだが、自分が入って来るバルコニーのドアを閉めるとパニックになる。だから、ズレータが事務所に居る間中、ドアは開け放しておかねばならず、ドアの近くにデスクのある社員さんは、ズレータが入って来ると、ダウンジャケットとオーバーパンツを着込んで、吹き抜ける寒風を凌がなければならない。本当に申し訳ないことだ。暖房の効いた事務所は、ズレータにとっても心地良かろうと思うのだが、どんなに毎日通おうとも、ここはズレータの陣地にはならないらしい。慢性鼻炎の鼻をずこずこ言わせながら、そそくさと帰っていく姿に、一抹の寂しさを感じながらも、野性の逞しさが眩しく見える。

もっと頂戴、とズレータ用に特別用意したフードをねだる。

コアネちゃんを群れから追い払い、紅一点となったあっちゃんは、ズレータ以上にマイペースだ。雨の日や、極端に寒い朝は、ご飯をパスして朝寝を決め込んでいる。食べ物の好き嫌いもひどく、ドライフードであれ、缶詰であれ、気に入らなければ鼻もひっかけない。同じフードでも、お腹を空かせている時は夢中で食べるのだから、食べないからと云って、心配するのはやめにした。あっちゃんは、黒目が細く、きつい顔立ちをしていて、お世辞にも愛くるしいとは言えないが、均整の取れた体つきと真っ直ぐな尻尾が魅力的なのか、マンション住人や通りがかりの人の携帯カメラが向けられることが多い。カメラマンの太田威重さんによって、サンケイ・エクスプレスの1ページに載せていただいたのもあっちゃんだったっけ。

ステーキ屋さんが勝手口に置いてくれた段ボール箱に入ったあっちゃん

それにしても、コアネちゃんは、今、どこでどうしているのだろう。外猫たちは餌場を複数確保していると云う。心安く暮らせる場所で、つつが無く彼女の時間を刻んでいると信じよう。外猫さんとは、まさに一期一会。それだけに、毎朝、顔を合わせるたびに、感謝でいっぱいになる。

2011年睦月、内猫、外猫総勢14匹は、賑やかに私の暮らしを支えてくれている。今回、それぞれの猫たちの写真を探したのだが、昨年撮った写真の少なさに唖然とした。昨年一年、母のいない暮らしに追われ、ただただ夢中で過ごしてきたようだ。猫たちにカメラを向ける余裕すらなかったことにも、気づかないできた。今年は、もう少し、心身ともにゆとりをもって暮らしたいと思う。大事な猫たちのためにも。

 

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