『らーちゃん』のやきもち (H14.4.25)

個室と安定剤のお陰で、『隣の宮沢さん』の毎日は静かで穏やかなものとなった。日中は個室を出て過ごしているが、安定剤のためか、ほとんどの時間トロトロとまどろんでいる。薬が切れる頃になると泣き始めるが、個室に戻すとピタリ泣き止み、おとなしく過ごす。個室の威力を確信して、新たにもう一回り大きなトラベルキャリーを求めることにした。今使っている個室はファイトの大切な寛ぎの空間だから、一日も早くお返ししなければならない。

ダルメシアン級の成犬を飛行機で輸送できるペットシャトルというコンテナを買う。いざ組み立てようとすると、5匹のやんちゃ坊主が本体の上半分と下半分に3匹、2匹と分かれて陣取ってしまった。相変わらず好奇心旺盛だ。彼らを追い出しては、また占拠され、を繰り返しながら、やっとの思いで組み上げる。キャスターも付けて、完成!軽々、スムーズに移動できるし、なかなか具合が良い。「ほうら『隣の宮沢さん』、新築の個室だよ、入ってごらん」と中に入れると、まんざらでもないらしく、片目を大きく見開いてしゃんと正座をしている。

元の個室は『隣の宮沢さん』の匂いが残らないようにきれいに掃除をして、フェイクファーのベッドを入れて、元の場所に返す。「ファイト、どうもありがとう。」翌日は雨。良かった、ファイトの特別室を返すのが間に合って。と思ったが、ファイトは全く無視。ロッキーママが占拠するもう一つの個室の上で座り込み、自分の部屋に戻ろうとしない。ファイトのいつものパフォーマンスだ。「勝手に取り上げて、勝手に戻した部屋に、そうそう都合良く戻れるかい!」というファイトの声なき声が聞こえてくるようだ。気位の高いファイトのこうしたパフォーマンスには慣れっこになっているNeco家の面々は、さほど気にもかけない。案の定、次の日には、しっかり古巣で寛いでいた。

さて、『隣の宮沢さん』だが、このところミルク以外のご飯に見向きもしなくなった。食欲がないのかと心配しながらお箸で口に運んであげると、まあ、良く食べること。これでは一人で食べなくなってしまうからと、あえて目の前にご飯を置くだけにしておくと、今度はおばあちゃんやNecoの顔とご飯のお皿を交互に眺めて、「お願いしま〜す」と催促するようになった。何千回と舌を繰り出しても一向にご飯が口に入らないことも苛つきの一因と思えて、つい手伝うことが多くなった。

新築の個室に、仲居さん付きの食事、さらに「静かにしていられて、おりこうね〜」という甘い褒め言葉…これに反応したのは、なんと、人の良い『らーちゃん』おじさんだった。かねてから朝夕のカラオケを日課にしていた『らーちゃん』だが、それが『隣の宮沢さん』の分まで騒ぐのかと思うほど、エスカレートしてきた。遠吠えのような独特のメロディーに唸り声が混じる。リフレインばかりでなかなか一曲が終わらない。ご飯も無視するし、落ち着かずに室内をウロウロするし。収まっていたおしっこピュッも再発した。

これまであれほど『らーちゃん』を頼り、す〜りすりの連続だった『隣の宮沢さん』も、独寝するばかり。『隣の宮沢さん』を通して自分の価値を再確認した『らーちゃん』だっただけに、また自分が分からなくなってしまったのかもしれない。そう言えば、『隣の宮沢さん』を連れ帰った当初、しっかり守っていた「新人よりも先住者を大切に」という鉄則が、新人の奇行に振り回される間になし崩しになっていた。こちらの不覚はオシッコとなってしっかり我が身に降り掛かる。

今日は『らーちゃん』をグルーミングしてあげよう。『らーちゃん』はNeco家の大切な大切な家族なんだからと、『らーちゃん』と自分に言い聞かせながら。