猫が肝をつぶすと (H14.3.31)

ロッキーの6匹の弟妹がおどろくと大変な騒ぎになる。これは小さい頃からずっと変わらない。まだ『らーちゃん』がやって来る前、2階にも自由に行き来できたころは、びっくりするたびに2階にダッシュで駆け上がっていった。マンガに描くと足がぐるぐる回って輪っかになる、そんな感じだ。廊下ですべると、輪っかになった足が空回りする。ホント、マンガそのものだ。6匹が一斉にダッシュするからダダダダッ、物凄い音がする。インターフォンがなるとダダダダッ、電話が鳴るとダダダダッ、お客さんが来ようものならもう大変。
ダダダダッと2階へ行くけど一体どこに隠れているのかと、ある日そうっと見に行った。どこにも姿が見えない。クロゼットは閉っているし、どこへ消えてしまったんだろう。引出し付きのベッドだから、ベッドの下には入れないし、と思いながらベッドを眺めると、その引出しの位置が微妙にずれている。もしやと足音を忍ばせて近づき、手前の引出しを開けてみると、何と4つ並んで握り鮨のように身動きもせず収まっている。残りの2匹は?ともう一つの引出しを開けると、手前の引出しに入り切らなかった2匹が、こちらも身動きせずうずくまっている。本人たちは真剣そのものだから、笑っちゃ悪いと思いながら、ぷっと吹き出し、大笑いとなった。
 最近は2階の部屋は立入禁止なので、1階のタンスの上か、押し入れに逃げ込んでいる。どうしてこうもびっくりするのだろう。そう言えば、『ファイト』もびっくりするんだった。『ファイト』のびっくりは垂直飛びだ。ぴょんと1mほど垂直に飛び上がる。それでお終い。

 仕事を終えて事務所を出ると季節外れの夕立ち。大粒の雨が道路を叩き付けていた。稲光りが夜空をピンクに染める。雷は遠いのか、雷鳴はさして聞こえず、家に入ると雷のことは忘れてしまった。遅い夕食を取っていたとき、突然、聞いたこともない、家を揺らさんばかりの物凄い雷鳴が轟いた。一回だけ。完全にふいを突かれたNeco家の面々は肝をつぶした。びっくり常習犯の6匹も、もちろんダダダダッ!瞬時に所定の位置に避難した。ああ、びっくりした。深呼吸をして体勢を立て直し、夕食を続ける。どれくらいの時間が経っただろうか、ふとテーブルを挟んだ向かいのソファーに陣取る『ぬーちゃん』に目をやった。『ぬーちゃん』の目玉が妙に飛び出しているように見える。もともとビー玉のようにまん丸な目をしている『ぬーちゃん』だが、横から眺めるとこんなふうに目玉が飛び出しているのか、などと考えるともなく考えていた。いつものように「『ぬーちゃん』、こっち向いて」と声をかけたが、この時ばかりは何の反応も示さない。何か変。うんこらしょ、9キロの巨体を持ち上げて、自分のソファーに連れてきたが、顔はお面でも貼り付いたみたいに、ぴくとも動かない。やっぱり変。やっぱり目玉が飛び出してるよ。しげしげとその顔を眺めながら、ようやく思いついた。さっきの雷だ。びっくりが極限に達しちゃったんだ!
 6匹の中でもびっくりチャンピオンの『トンちゃん』はどうしただろう。探してみると、収容猫員1匹のタンスの上で、『ニセド』にぴったりくっついている。『ぱぱちゃん』が抱きおろす。「大丈夫か?怖かったね。」こちらも目玉こそ飛び出してはいないが、その顔には無表情が貼りついている。そして今度は『ぱぱちゃん』がびっくりした。『トンちゃん』の首がカチカチになって、まったく動かないと言う。そんなオーバーな、と思いつつ、「『トーンちゃん』、お首ちゃんと動くもんね」と手を伸ばした。うっ、動かない!まるで死後硬直しちゃったみたいな堅さだ。不安になるような堅さだ。
 猫が肝をつぶすと、目玉が飛び出したり、首がカチカチになることを初めて知った。そしてあの雷が本当に危険なものだったことを、改めて知った。
 『ぬーちゃん』の目玉がいつもの位置に戻り、『トンちゃん』の首が動き、2匹の顔に表情が戻るまで、さらに2時間かかった。