数珠つなぎ (H14.10.21)

ラブリー先生にいただいてきた『ニセド』用のプリスクリプション・フードは5種類に及んだが、肝心な結石を溶かす作用のあるフードは頑として食べないまま、他のフードだけがなくなっていく。結石を溶かすという積極的な働きはないものの、結石を作り難くする予防効果は期待できるので、これなら良かろうと思っていた矢先、トイレに長々としゃがみこんでいる『ニセド』を発見。家族皆の心配と不安の視線を感じたのか、『ニセド』はおもむろにトイレから出てきた。6つの目で覗き込んだトイレには、おしっこの痕跡なし。『ニセド』はトイレから出たものの、その場にしゃがんで身動き一つしない。昨夜10時半のことだ。

次の瞬間、ラブリー先生に電話をかけていた。「すぐにお連れください」という看護婦さんの声に、ほっと胸をなでおろす。受話器を置いた時には、すでにキャリーが運ばれていたが、事情のわからない『ぬーちゃん』が大喜びでキャリーに入り込み、収まり切らない後ろ足を何とか中に入れようと、狭いキャリーの中で格闘している。出るのを嫌がる『ぬーちゃん』を情け容赦なく引きずり出して、これまた嫌がる『ニセド』を押し込め、車に乗り込んだ。大声で鳴き通す『ニセド』をなだめ、ようやく鳴き止むと今度は「ニセド、ニセド」と呼び掛ける、そんな道中だった。

さっそく診ていただくと、12日前とまったく同じ、石がおチンチンの先っぽに数珠つなぎになっているという。その数珠を膀胱に戻そうとしたが、3人がかりで押さえ込んでも動いてしまい、再び麻酔をすることになった。待つこと数分。さっき食べたばかりのフードを全部吐き出し、やがて瞬幕が目の半分を覆った。十数年後、こんな表情の『ニセド』を見送るのだろか…ふと、そんな思いが胸をかすめた。体の力が抜け、目を半開きにしたまま動かなくなった『ニセド』は、別室に連れていかれた。漏れ聞こえてくる「ピッ、ピッ」という心拍を示す音に、体を被う産毛の一本一本が反応し、毛穴がきゅっと閉じる。

先生がスライドガラスに乗せた『ニセド』の数珠を見せてくださった。長さ1センチ、直径1ミリあるかないかの細長い結晶の固まり。これが、『ニセド』のおしっこを通せんぼしていたのだ。顕微鏡で覗いてみると、細長い8角形の透明な結晶がいくつも見える。抜き取ったおしっこの中には、粉のような粒がたくさん混じっていた。尿の比重も高く、潜血反応も見られた。

先生にいただいたフードしか食べていないのに、なぜ、それもわずか12日で…そんな胸中を知ってか知らずか、先生の「真剣に食事療法をしていただかないと。この繰り返しでは、尿道を広げる手術をすることになりますよ」というお叱りの声。『ニセド』が頑として食べない、あのフードをどうにかして食べさせなくてはならなかったのだ。肥満も結石を起こしやすいという。我が家の食事の与え方を、根本から見直さなければならなくなった。とは云え、毎日帰宅が9時過ぎになるneco夫婦にできることはほんの僅か。13匹の面倒を一手に引き受けているのは『おばあちゃん』なのだ。その負担を思うと気が重くなる。急に口数が減ったnecoの胸中を察してか、「食事療法を一緒に頑張ってやっていきましょう」と先生が励ましてくださった。「一緒に」…何と勇気づけられる言葉だろう。「一緒に」…。

運ばれてきた『ニセド』は現への帰り道。瞬幕に半分被われた目をじっと見ていると、ピクッと瞼が動き始めた。やがて瞬きを1回、2回。急に我に返った『ニセド』は、ふらつきながらも身を起こし、あたりを見回しながら大きな声で一鳴きした。

一人では食べられず、見えない左目に目薬を欠かすことのできない『隣の宮沢さん』、姿を見せない間にすっかり口内炎を悪化させた『キャラリン』に加え、結石の『ニセド』、さらに肥満のその他大勢…『おばあちゃん』、どうかよろしく!!

家に辿り着いてからも後脚が思うように動かない『ニセド』に、何と『トンちゃん』が猫パンチを見舞った。あれほど『ニセド』べったりの『トンちゃん』なのに、弱いと見たら攻撃するのか。これが野性の本性なのだろうか。