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★★★★

眼が見えない猫のきもち

2005年8月24日 初版第1刷
著者:徳大寺有恒
発行所:株式会社平凡社
ISBN4-582-83277-6
C0095

『間違いだらけのクルマ選び』で著名な、自動車評論家、徳大寺有恒氏が、愛猫チャオとの暮らしを綴ったエッセイ集。

……猫という生き物は、気まぐれでエゴイストで、そのうえ女のように恨みがましい。

本文の最初に著わされたこの一文は、猫嫌いの心理を見事に凝縮してしている。そう、徳大寺氏は、猫嫌いだった。その氏が、盲目で、猫エイズのキャリアで、みすぼらしい猫を保護したという知人の一報に触れ、なぜか飼ってみよう、という気持ちになる。
すべては、ふと心をよぎった思いから始まるのだが、この気まぐれとも言える思いつきは、必然であったように思える。

本書は、氏と盲目の猫チャオとの日常を描きながら、話題は回想の羽で自由に飛んでいく。気づけば、縦糸に氏の半生が、そして横糸にチャオが織り込まれている。もっとも、チャオと出会うまでの氏の生活に、猫という異質の糸が入り込む余地はなかった。ただ、だれの人生でも、織りの手が乱れることがある。その糸の緩みに
、思いも寄らない糸がすべり込むのだろう。チャオは、そうして徳大寺氏の生活に入り込み、心の織物に豊かさと厚みを与えることになる。

盲目のチャオの生き生きと豊かさな生きよう……その素直な描写に勇気づけられながら、徳大寺氏のチャオに寄せる思い、チャオを眺めつつ自分自身の内側を見つめなおす氏に、深く共感していくのである。


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